真夜中のことだ。既に屋敷の住民は眠りについており、廊下を歩いてもすれ違う影はなかった。それを知っていながら、武蔵は足音が響くのも構わずにずんずんと廊下を進み、通い慣れた様子で暗い道を行く。光源の乏しい中、彼の足取りには迷いの欠片もない。暗がりとも思えぬ足さばきである。そのままの調子でとある襖の前に立ち、そこでようやく武蔵は足を止めた。襖に両手をかけて、夜の静寂を切り裂くような痛快な音を立てて、思い切り襖が開かれた。
しかし、部屋の住人――幸村は、こちらに背を向けたまま微動だにせずに、薄明かりの中黙々と作業をしている。武蔵は一瞬、開いた襖をどうするか迷ったようだったが、身体を部屋の中へ滑り込ませた後に、今度は丁寧な動作で隙間なく戸を閉めた。そろりそろりと幸村の背に近寄っても、幸村はやはり振り返りもしなかった。
「お前、いつ寝てんの?」
突然の訪問の、第一声がこれだった。昨晩は親睦を深める為との名目で酒宴が開かれているはずで、幸村も確か渋々参加していたはずだ。武蔵も招待は受けていたが、武蔵はそれを黙殺した。酒も女も、同じぐらい嫌いだからだ。特に煌びやかな女は嫌いだった。昼間に顔を合わせた後藤又兵衛の談では、場が解散したのは空が白み始めた頃で幸村は最後まで酒を呑んで注いでを繰り返していたらしい。昼間は兵の調練に忙しく、昼寝をしている暇もなかったはずだ。
そういう思いがあっての先の言葉であったが、幸村は武蔵の問いには応えず、
「何の用だ?」
と、やはり作業を止めることなくそう言った。武蔵は幸村の強情さを知っているから、下手に問いを重ねるようなことはしなかった。
「夜這いだよ、夜這い。あの真田幸村はどんな顔で寝るんだろうなーって思ってよぅ」
「何だそれは」
声に笑みを滲ませながら、幸村はそこでようやく手を止めて、武蔵を振り返った。薄暗い室内だ。互いの表情までは分からない。幸村の手元を照らしていた灯りが、幸村の影をより深くしていた。それでも、彼が笑みを作ったことだけはわかって、武蔵もそれに合わせて笑った。
「なぁ、それ何作ってんだ?」
「ああ、これは真田紐だ。兵たちに配ろうと思って」
「お前が直々に作らなくてもいいんじゃね?少ないっつっても、お前が気安く命令できる奴らぐらいいるだろ」
「好きでやっている。わたしはこの作業が好きなのだ」
幸村はそう言ってもう一度微笑して、編み上げた紐の束を掴み上げた。灯りを移動させて、紐の色や網目を照らしだす。
「そう言えば、お前にはまだやっていなかったな。丁度良い機会だ、好きなものを持っていってくれ」
そうだな、お前の羽織に合わせて群青色などどうだろうか?言いながら、束の中から青色周辺のものを何本か抜き取る。武蔵はそれらをまじまじと見つめていたが、ゆっくりと首を振った。どうも、琴線に触れないのだ。武蔵のあまり良いとは言えぬ反応に、ではこっちでどうだ?と持ち上げた手首を、武蔵は無意識に握り締めた。幸村は振り払わずに、武蔵からの言葉を待っている。
「お前が使ってた、朱色のがあっただろ?俺はあれが欲しい」
「朱色なれば、」
「俺は、お前のが欲しい」
武蔵は時々、こういう『わがまま』を言う。子どものようだと幸村は思っている。そして、一もにもなく叶えてやるのだ。幸村は武蔵のわがままが好きだ。彼のわがままぐらいしか、幸村の力では叶えてやれるものがないからかもしれない。
「これでいいか?」
何かと小用に重宝している、朱色の少々色褪せた真田紐を懐から取り出せば、武蔵はこくこくと頷いた。色は鮮やかとは言えぬが、やはり丈夫と名高い真田紐だ、擦り切れていたりほつれていたりはしない。それを手の平で受け取った武蔵は、まるで姿を刻み付けるかのようにじっくりと見つめた後、懐にしまったのだった。
***
幸村は超人なので、睡眠なんか摂らなくてもいいんだ!特に大坂の陣での幸村は、やることいっぱいあるのに寝てらんない!戦の準備でハイテンションになってて、アドレナリン分泌され過ぎてて、すごい状態になってそう。
*
↑の大雑把な設定はこんな感じ。ぼやきも入ってます。
まず、ですが、うちの武蔵はほとんど宮本呼びがありません。何か、宮本武蔵って呼ぶと全然違う人に見えるから。無双の武蔵はただの武蔵であって、そりゃ宮本武蔵の要素を含んでてもいいんだけど、何かそんな大それたものがなくたって、武蔵はカッコ良いのだ!と思う。幸村に、ただの幸村っていうものが存在しないので、真田幸村!六文銭!真田家!軍師!とかそういうのが付いて回る感じです。だから無双から一人歩きし始めるんですよねー、知ってる。
やっぱり3発売しちゃったわけですから、3にキャラもシフトチェンジしなきゃなーと思ったので、そんなこんなで、もし武蔵が3に出ていたら、を考えてみた。主に幸村との絡みでござるよ。
基本、2のままです。見た目とか、演舞とかが。
ただ性格はちょっと自分趣味な感じで、ちょっとだけスレてる、かな。やっぱり暗い要素が何かしらある感じで。スパイス程度ですが。武蔵はあんまり人見知りしないけど、人の好き嫌いは激しい。芸術家気質で、時々意味不明なことを仕出かす。本人無自覚。潔癖の気があるけど、人付き合いとかのあれこれは不精。人の領域にずかずか土足で上がってこられるがのすごい嫌。自分の世界に割と引きこもってる。相手の世界に介入するのが、ちょっと面倒。こわい、ってのもちょっとある、かな。礼儀作法は知らないわけじゃないけど、慣れてないからぎこちない。あとまどろっこしいから嫌い。女っていう生き物を嫌悪してるので、城の中に入れない。女っっていうのは、くのいちとか甲斐姫とかのタイプじゃなくって、淀の方みたいな女であることを武器にして生きてる色気むんむんの人、かな。あと自分の性別に自覚がありすぎる人、とか。
下地はこんなんかしら。2の武蔵を知って、こんなんだったらどうだろう?こういう要素あったらいいのに、と思ってたのをいっぱい盛り込んでみた。
幸村に対して。
出会いは二条城での秀頼様救出戦(…)
すぐに別れるけど、後に大坂城で再会。ここら辺は一緒です。
2はどうしても対等になれなかった二人ですが、3なんだし対等な関係にしてやりたいです。というか、2の幸村の対等に当てはまるのは伊達さんだったんですが、今回はどうしても対等に見えないので。そういう意味では、唯一のお友達って感じで。幸村は他の人に対して、猫被ってるってわけじゃないけど、一線引いたところがあって、でも武蔵に対しては人でなしな自分も全開にしてるといい。それでも武蔵は離れていかなかったんだね、ってことで。
10/01/17