ハッピーエンドなはずが、幸村さん的にはBAD ENDな大坂の陣の後。


 遠くで聞こえる祭囃子に、ぼんやりと耳を傾けている。武蔵や清正、正則たちに、一緒にどうだと代わる代わる誘われたが、幸村は苦笑を浮かべて謝罪の言葉を告ぐばかりだった。訪ねる者もいなくなった静かな部屋の隅で幸村は壁に背を預けてうなだれている。童歌は、籠城した豊臣軍が見事に徳川軍を打ち破った、やれめでたいめでたいと騒ぎ立てるものばかりで、ますます幸村は身を縮こませた。
 どうにも、手元がさみしい。長年連れ添った相棒は、先の戦の最後に仕事は終わったといわんばかりに真っ二つに折れてしまった。わたしの相棒が、魂が、槍が、槍が、わたしの大事な大事な武器であり信念であり。けれどもあれはわたしの相棒ではあったかもしれないけれど、所詮は道具であり魂ではなく、信念でもなく、ただただ道具であり手段であり、けれどもわたしはそのみじめな手段をいたく気に入っていて。

「武器を、」
 新調したいのです。その一言が誰にも言えずに、幸村は細く細くため息を吐き出すのだった。





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『白い旗』「私には武器なんてもうないのでしょう」
10/01/30