「くのいち、」

 と、呼びつければ、彼女はびくりと一瞬だけ身体を震わせたものの、様子はいつもと全く変わらなかった。

「何の用です?あ、また怪我したんですかぁ?ほんっと懲りないですよねぇ幸村様は。はいはい今手当てしますから。こっちの傷なんて、もう見事にぱっくりいっちゃってるじゃないですか。はーい消毒するんでしみますよー。うっわ、こっちはこっちでこりゃまた派手にぶつけましたね、数日後がこわいですよこれ。くのちゃんが上手に手当てしてあげますからまぁ心配ご無用ですけどね!ちゃんと感謝してくださいね。そーら、幸村様は包帯ぐるぐる巻きの刑です」

 言いながら、てきぱきと処置をしていく様を、幸村はじっと眺めている。手付きによどみがない。無駄がない。けれども幸村は、彼女が動揺しているのだと気付いて、気付いてしまったにも関わらず、幸村は何も言わなかった。言葉を持っていないのだ。ただ気付いてしまった己の迂闊さを恥じた。彼女をどう慰めるべきなのかが分からない己を恥じた。

「幸村様、次はちゃんと守るからね」

 お前のせいではない、わたしが己で招いた事態だ。わたしが考えなしのように(幸村は己の猪突猛進振りが傍目そう捉えられることを自覚していた)突撃したせいだ。そう言えばよかっただろうに、幸村は彼女の言葉に相槌を打つようにゆっくりと首を縦に振っただけだった。





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『薬箱』・「いいお薬をくださいな 楽しい夢が見れるやつ」
10/01/31