石田三成にとって、真田幸村という男の存在は、良くも悪くも心ノ臓に悪い存在である。その笑顔一つで三成がどれほど動揺しているのか、彼は全く知らないのだろう。僅かに頬を染める三成を見ても、今日はあたたかな日ですね、と全くの見当外れを言う。三成が言えた義理ではないが、人の気配や機微には敏いくせに、人の感情や動揺には疎いのか幸村であった。


 だが三成は、彼の疎さにやきもきしながらも、それすら愛おしいとすら感じていた。そう先程までは。「殿!殿!」と耳元で大きな声で呼ばれても、三成は緩慢に振り返ることしか出来なかった。頬にも手にも、べったりとした赤が付着していて、三成はその赤の毒々しさにも似た鮮やかさと醜さに戦慄した。「殿!大丈夫ですか?!」珍しく取り乱した家臣の声は、三成をこちら側へ呼び戻す役目を果たせなかった。ぼんやりとした視線を一身に受ける"彼"は三成の両手と同じ赤で全身を染めていた。そうして、鈍った痛覚で顔をひき攣らせながら、彼は笑っていた。穏やかな微笑は、三成の心を余計に動揺させた。「殿、殿、ご無事ですか?!」肩を掴み揺さぶる家臣の手を跳ね除けて、三成は彼に駆け寄った。背後で左近の慌てた声が聞こえたが、三成には雑音の一つにしかならなかった。早鐘を打っている心ノ臓の方が、よほど大きな音を立てている。「幸村!」と吐き出せる限りの声で叫べば、幸村は見慣れた、眉尻を下げた困ったなあと言いたげな笑みを浮かべた。「怪我、は、ありません、か?」切れ切れの言葉に、三成は体温がサァと波が引くように下がっていくのを感じた。「俺よりも、お前は、自分の心配をしろ。怪我を、」しているどころの話ではない。重傷だ、まるで身体中の血を流し続けるのではないかと思わせる程に、幸村の傷は深い。恐ろしいことに、まだ止血すら済ませていないのだ。濃密な血のにおいに、眩暈すら感じた。「あなた、に、お怪我、が、なかった、のなら、だいじょうぶ、なんです、」当然のことのようにそう言い切った彼に、三成は言葉を見失い、左近が幸村の怪我の応急処置を施している間も、ただ黙って見守ることしか出来ないのだった。





いい加減にしろ、お前は己の世界の小ささを覚れ!
(けれどもそう叫んだとしても、この男は小さな世界に酔い痴れ続けるのだろう。)











うちの三幸は基本噛み合ってないので、むしろどうしようかと悩みました。結果、短くまとめてみました(…) 三成ばっかり悶々してます。オフィシャルだと思ってるんですが、どうなんでしょうか?<多分、違うと思います、よ

08/12/31