穴山小助は、主・真田信繁と、めでたく真田家の一員となった、利世の二人が仲良く遊んでいるのを眺めながら、ひっそりとため息を飲み込んだ。利世は大谷吉継の娘である。信繁が何度も吉継に掛け合い、時に石田三成を使って、どうにか落とした女子であった。が、いささか若すぎた。歳の割に言葉もしっかりしているが、まだ幼子と呼んでも通じる年頃だ。何を急いて彼女を貰い受けたのか、そもそも彼女にこだわる必要はあったのか、と小助は思う。確かに、信繁が吉継の才に感銘を受け、誰よりも彼を慕っているのは分かるのだが、物事には機というものがあって、まだまだ、彼女はそれを受け入れるには幼すぎる。要は、この婚姻に不満のある一人なのだ。それは真田家も同様だろう。勝手に裏工作をして婚姻を進めて、本家には秀吉直々の書状で命を発布されているはずだ。真田家の意向も伺わずに勝手に物事を推し進めてしまったのは、これが初めてではないだろうか。息子を猫かわいがりしている父・昌幸にしてみれば、信繁の妻は父の目に適った女子を嫁がせるつもりだったに違いない。確かに、才覚だけを見れば、問題はないように思える。しかし、彼は立派な秀吉子飼いの一人であり、それ以上に患っている病が、彼を敬遠させる理由だ。相手が大谷吉継の娘と聞いて、昌幸は良い顔をしないだろうな、と小助は思う。それはきっと、正しい。
「信繁さま、利世は信繁さまのことをどのようにおよびしたらよいですか?」
頬を緩めて、信繁は利世の手遊びに付き合っている。夫婦と言うよりは、歳の離れた兄妹のようだ。信繁はにこにこと機嫌の良い笑みを貼り付けながら、少しだけ考える素振りをした。
「そうだね、わたしの兄上のお嫁さんはね、兄上のことをお前さまと呼んでいたから、於利世もいつか、わたしのことをそう呼んでくれれば嬉しいよ。ああ、今じゃなくてもいいんだ、お前が大きくなって、わたしの言うことを理解してくれた時でよい。今はお前の呼びたいようにお呼び。」
はぁい、と甲高い元気な声に、信繁はいっそう笑みを深くした。飲みきれなかったため息がこぼれる。信繁は小助の様子に気付いたようだったが、ちらりと機嫌の良さそうな、深い笑みをこちらにも向けただけで、何も言ってはこなかった。
小助は思うのだ。信繁が誰にも相談することなく縁談をまとめてしまったのは、純粋な復讐心からだ、と。信繁は兄に嫉妬したのだ。己の目が届かぬ場所で、勝手に相手を決めて、婚姻まで済ませてしまった兄を。その時の動揺を、兄にも味合わせてやらねば気がすまぬ!と信繁は思ったのではなかろうか。信繁も大坂の権力の中で踊らされているが、石田三成や大谷吉継とてこの主に利用されているのだ。そう思うと、渦中にありながら何も知らぬ顔で笑っている利世の不運に、小助は苦い想いをするのだった。
(けれども案外に、彼女とて若を利用しているのかもしれぬ。彼女が若に一目惚れをして、それを成就させただけなのかもしれぬ。)
そう妄想してみたものの、小助の心のもやは晴れることはなかった。
どうしても入れたかったので。うちの真田兄弟はらぶらぶです。利世の年齢設定を間違えた気がしなくもない。秀次事件の方でもちろっと出てるんですが、そう何年も経ったわけじゃないので。う〜ん。ぶっちゃけ、幼女にでれでれ信繁が書きたかっただけです、さーせん。
09/04/05