ゆきむら、ゆきむら、ゆきむら!

 ああそれは私の名だ、私の。けれど私ではない者をそう呼ぶ人もいて、けれどああ、その声は、私を呼んでいるのだ。

「幸村、ゆき むら!」
 何度そう呼ばれたのか、幸村はようやく目を開けた。その先には見慣れた天井に慣れた布団の手触り、嗅ぎなれたにおいに、聞き慣れた声がした。そして、これが現実だと証明するように、数日を寝て過ごした幸村の身体は重かった。上半身を起こすだけでも節々が痛んだ。
「、三成どの、兼続どの。」
 おはようございます、という声が掠れた。目を開けた途端に映し出された三成は、必死の形相で幸村の顔を覗き込んでいたが、今は気が抜けたのか、その場にへたり込んでいた。兼続がやれやれ、と言った様子で肩を竦めている。
「お前を見舞おうと三成と連れ立ってきたのだけれどね、お前と来たら、全く目覚める気配がないではないか。医者の見立てを聞いても、心ノ臓は正常に動いてる、呼吸もまた然り。体温にも異常がないから、目覚めないとはこれまた珍妙。と無責任なことを言う。それで、三成が騒いでいたところ、お前が目覚めたというわけだよ。」
「俺は別に騒いでいたわけでは、」
「ああそうだな、お前は心配で心配で仕方がなかったのだからな。幸村、とても心配したのだぞ。身体の調子はどうだ?」

 二人の声を聞き、幸村は途端目頭が熱くなった。ああ私の生きる世界はここだ、私の、私の、
そうほっとしたのかもしれない。だが、それだけではない。
 幸村の尋常ではない様子に、二人は心配そうに駆け寄る。そうではないのです、そうでは。ぽろり、と一滴、落ちた。後は止まらない。幸村は止める術を持たない。思考をそっちのけで、感情ばかりがあふれてしまう。ああ、嗚呼、と辛うじて言葉が頭の中で反響している。
「幸村、どうしたのだ、どこか痛むのか?医者を呼ぼうか?」
 三成が落ち着かない様子で腰を上げようとする。幸村は彼の着物の裾を引いて、返事の代わりに首を横に振った。
「夢を、見たんです、」
 とてもとても穏やかな、甘やかなゆめでした。そこには三成どのも兼続どのも居なかったけれど、同じぐらい優しい方たちがたくさん居て、
 彼らにもう二度と会えぬのだと思うと、涙はとまらなかった。





夢から覚める
でも、少しだけ、あの世界が羨ましくて、