届かないその尊い哲学に 第三者から見た義トリオ
三成が、上杉家の宰相・直江兼続と、人質として大坂城に滞在している真田幸村とに囲まれている光景は、既に別段珍しいものではなくなっていた。それでも清正は、あの石田三成が誰かと和やかに談笑している姿に慣れることが出来ず、ついつい何度も確認してしまう。政に携わっているせいで知り合いは多い三成だが、上手に取られてからかわられているか、三成自身が相手を怒鳴りつけているかのどちらかで、親しげにそれこそ笑みを浮かべながら雑談をしている姿、というのは長年を共に過ごしている清正にとっても、天変地異の前触れか、と冗談でも飛ばしたくなるぐらいに予想だにしなかった光景なのだ。
幸村は共に鍛錬をするぐらいに接点がある分、ああ彼はああいう性分なのだなあ、と感心半分諦め半分に思うことはできるのだが、生憎と兼続に関しての情報は皆無だった。三成と同年ながら、上杉家の悉くを彼が握っているのは本当だろうか。政の詳細から、軍備のそれ、こと戦になれば兼続が策を練り策を展開し、当主である上杉景勝はただそれに頷くだけ、と、噂話では聞いている。それが真かどうかは知りたいような気もするが、正直どうでも良い事柄でもあるので、彼と面と向かって訊ねる気にはなれない。ただ、三成はおいといて、他の二人の声はよく通るので、会話の内容は聞こえずとも、彼らの声は周りによく響いている。闊達とした声は聞いていて小気味良いが、あの三成相手に歯に衣着せぬ物言いと言うのだろうか。とにかくござっぱりとしていて、底抜けに明るい。三成も思ったことをそのまま口に出してしまう性質であり、そのせいで方々に喧嘩の種をまいて回っているようなものだ。兼続もあまり言葉をうやむやにしてしまう方ではないのだが、三成とは違い、うまく人々の中で回っている。様々な噂が飛び交いながらも、上杉家では常に景勝の隣りに居るというのは、三成にはない器用さを持っているのだろう。
そうなると、益々直江兼続が三成と親しい理由が分からないのだ。三成は機嫌が悪いと、いつもの険悪面が更にひどくなって、気の弱い子どもであったら軽く泣き出しているぐらいの凶悪さがある。元が整っているせいで、怒ると般若のような迫力があるのだ。ある意味、その時その時の気分が分かりやすい三成だが、そういった面倒な場面に立ち会ったら、清正であったら、そのことには何も触れない。これは正則も同様だろう。不機嫌な相手を更に悪化させる面倒さを知っている分、触らぬ神になんとやらではないが、極力関わり合わぬにようにするのが自分たちの付き合い方だ。兼続は違った。三日程寝ていないからなのか、食事を摂っていないからなのかは分からないが、とにかく物凄い形相をしている三成に向かって、『なんだ三成、今までにないぐらいに機嫌が悪そうじゃないか』と兼続はあの声で朗らかに言い、あははと笑っていた。そこにたまたま居合わせてしまった清正は、ぎょっとした程だ。三成の様子からして、何を言っても地雷にしかならないだろう時に、兼続はあっさりと三成の間合いに入り込んで、なんとなんと彼を笑い飛ばしてしまったのだ。清正にしてみれば、お前こそなんなんだ、と言いたかったが、次の瞬間にはその言葉すら吹っ飛んでしまった。三成の不機嫌が、少しばかり和らいだのだ。兼続は気付いているのか、気付いていない振りをしているのか分からないが、それ以上三成の機嫌に言及することはなく、『あまり根を詰めすぎるものではないぞ。お前が自愛してくれねば、私も幸村も心配する』と、軽く三成の肩をぽんと叩いた。三成が蚊の鳴くような小さな声で、『…うむ』と返事をしたことに満足したのか、兼続はにこにこと笑って、そのまま二人は分かれた。決して他人の助言など受け入れない三成が、その後に数刻の仮眠をとったことを、清正は知っている。仕事のことに口を出そうものなら、その二倍三倍もの怒号が飛んでくる、あの三成が、だ。お前らの友情は見ていて痒くなる、と清正はその場の空気に当てられたのか、むずむずとする頬を乱暴に擦った程だ。
「おおーい清正ぁ!何してんだよ!」
この大坂の大半の騒音の原因である正則の登場に、清正は少しだけげんなりした。口に出すのもなんとなく癪で、顎で眼下を示す。正則が清正に飛びつくように寄り掛かって、同じものを見ようと目を凝らす。
「相っ変わらず、仲良いなー、あいつら。お、二人に髪触られて、照れてるぞ、三成。すっげぇ光景だなあ!!」
さも楽しそうに大笑いする正則の隣りで、清正は頭を押さえる。どうした三成と言うべきなのか、あの二人を褒めるべきなのか。
「こう見ると、やっぱ清正と三成って似てるよなー。おねね様を前にした清正と、あいつ、そっくりな顔してるぜ!」
とりあえず、馬鹿の発言が大変不愉快だったので、一発殴っておいた。別段隠れているわけではなかったが、正則の大き過ぎる声に三人は気付いたようで、幸村がまずは軽くお辞儀をする。三成はこちらを視線で射殺したいのか、と言わんばかりの鋭い目で睨み付けてきた。三成から目をそらそうと視線を移すと、丁度兼続と目が合った。にこりと微笑まれて、清正はどう対応していいか分からず、苦し紛れにもう一度、正則の頭を殴ったのだった。
個人的に、兼続と清正のコンビは割と好きです。
清正が一方的にあなどれん…!と思ってる感じ。
兼続は、三成がもう一人居るみたいで微笑ましいなあ、程度にしか思ってません。
うちの義トリオは3になっても仲良し!痒い!
13/01/20