京・二条城周辺にて


 それでは、と、武蔵が背を向けた。幸村は彼の背中に刺繍されている『天下無双』の文字を見つめていたが、ふと思い立って世間話の気軽さで口を開いた。

「わたしの家に来ないか?」

 武蔵は、え?と振り返った。幸村はもう一度、「わたしの家に来ないか?」と繰り返す。武蔵は幸村の思考を探ろうと、彼の眸を一瞥した。幸村の表情はにこやかなままだ。

「家ってぇのは、信州の、」
「いや、高野山の古びた庵だ」

 幸村は淡々と言葉を繋ぐ。武蔵は、ああ、と思わず唸った。この男、堂々と市中に佇んでいるものの、本来ならば蟄居の身なのだ。少しぐらいは辺りを気にするものだろうに、その素振りすらない。

「来いって、つまり俺を召し抱えるつもりか」

 次に、ああ、と声を発したのは幸村だった。先程よりも少しだけ高くなっていた声は、ああそういうこともできるのか、と感心しているように聞こえた。

「ちがうちがう、わたしにはそなたを雇うだけの財力はないぞ。ただ、客として迎えたいと思っただけだ」

 きゃく、と、慣れぬ様子でもごもごと武蔵は言葉を繰り返した。今度は幸村が武蔵の眸を覗き込んで「不愉快か?」と訊ねた。召し抱える云々の言葉を発したとき、わずかに武蔵が顔を顰めてしまったのを目敏く気付いていたのだろう。武蔵はしばし考える。客、客かぁ。頭の中で何度か呟いてみる。その響きは、なんとも新鮮だ。

「それはなかなか、いい提案だな。いいぜ、厄介になる」

 幸村の顔に、ぱっと笑みが広がった。特定の住まいを持たず、今日の宿もまだ決めていなかった武蔵に、断る理由はなかった。


















           


 オリジナル十勇士が出張ってます。時間軸は「自由だー!」長かったり短かったり。
 ★…ちょっと暗い。

 武蔵視線からの簡単十勇士設定











最終更新日:09/10/24