あの人が、私の辛苦して貯めて置いた粒々の小金を、
どんなに馬鹿らしく
む
だ使いしても、私は、なんとも思いません。
「そうではないかね。寂
し
さは、誰にだって在るのだよ」
あなたお一人さえ、おわかりになっていて下さったら、
それでもう、
よ
いのです。
ただ、あの人の傍にいて、あの人の声を聞き、あの人の姿を眺めて居ればそれでよいのだ。
あの人は嘘つきだ。言うこと言
う
こと、一から十まで出鱈目だ。私はてんで信じていない。
けれども私は、あの人の美しさだけは信じている。
あなたに出来る精一ぱいの反抗は、たったそれだけな
の
ですか、
あなたは、いつでも優しかった。
あ
なたは、いつでも正しかった。
あなたは、いつでも貧しい者の味方だった。
そうしてあなたは、
い
つでも光るばかりに美しかった。
当ページの文章は太宰治の『駈込み訴へ』から引用しました。
08/02/11
改訂:09/09/07
BGM : 『コトダマ』 / ALI PROJECT